最終更新日:2026年9月14日
9月に入り日本の長期金利上昇が話題となる機会が増えました。しかし長期金利上昇は先進国では共通の傾向です。長期金利上昇時の金価格の値動きについて、リアルで知るよい機会とも言えます。足元の長期金利上昇について解説するとともに、長期金利上昇時の金価格について解説します。
目次
9月1日に日本の長期国債(10年物国債)の利回りが3%を突破し、メディアで大きく取り上げられました。約30年ぶりの水準で、大きな話題となりました。高市政権の積極財政政策に対する金融市場の懸念、とも言える状況となっています。
しかし、長期金利の上昇は日本だけではありません。2026年夏以降、先進国中心に長期金利が上昇しており、主要7カ国(G7)の平均国債利回りは2008年以来の高い水準にあります。米国では30年国債利回りが一時5.3%を超えて2007年以来の水準となり、ドイツ・フランス・英国の長期金利も2008年や2011年以来の高水準で推移しています。
世界的な長期金利上昇の背景には、主に2つの要因があります。1つ目は根強いインフレ懸念です。中東情勢の緊張を背景に原油価格が高止まりし、エネルギー価格の上昇が各国のインフレ率を押し上げています。2つ目は各国の財政赤字の拡大です。コロナ禍以降の財政出動に加え、防衛費や社会保障費の増加が続いており、国債の大量発行が金利上昇圧力につながっています。
長期金利の上昇は、一般的に金価格には逆風です。金は株式の配当や債券の利息のような、インカムゲインを生まない資産です。金利が上昇して国債などの利回りが高まると、インカムゲインを生まない金から資金が流出しやすくなります。
更に長期金利の上昇はドル高にもつながります。高い利回りを求めて世界中から資金がドルに流入すると、ドルが上昇します。金は国際的にはドル建てで取引されるため、ドル高が進むと金の割高感が生まれ、金価格を押し下げる圧力がかかります。
ただし、金利上昇が金価格の下落に必ずつながるとは言い切れない点が重要です。長期金利上昇の背景がインフレや財政不安にあるなら、話は異なります。インフレが進行する局面では現金の価値が目減りするため、実物資産である金の価値が見直されやすくなります。また各国の財政悪化への懸念から「円やドルは刷れるが金は刷れない」という発想で金を保有する動きが生じる場合も、長期金利上昇と金価格上昇が同時に起きるケースが生じます。
現在の状況は金利上昇という短期的な下落圧力と、財政不安やインフレという中長期的な金の支上昇因が同時に存在しており、単純な「金利が上がれば金が下がる」という見方では相場を読み誤るリスクがあります。
8月28日、ジャクソンホール会議でのウォーシュFRB議長の講演が、金融市場に大きなインパクトを与えました。ウォーシュ議長は「基調的なインフレ率が目標の2%に向かっていると確信できなければ、FRBにはやるべき仕事がある」と発言し、追加利上げの可能性を明確に示しました。この発言を受けて9月の利上げ可能性が高まり、NY金先物は急落して、9月2日には一時4,300ドル台前半まで下落が進みました。
ウォーシュ議長のタカ派姿勢は、就任当初から金融市場に意識されてきました。初回となった2026年6月のFOMCでは政策金利を据え置きました。しかし物価の安定を最優先とする姿勢を鮮明にするウォーシュ体制のFRBが、金価格の上値を重くする状況がしばらく続きそうです。
しかし、トランプ大統領はFRBに利下げを求める姿勢を示しています。FRBが政治的圧力から利下げに動いた場合、インフレが加速してドルの信認が低下するリスクもあり、そのような場合は逆に金への資金流入が加速する可能性も否定できません。
世界的な長期金利の上昇局面において、金への投資は短期的な視点と長期的な視点を分けて考えることが必要です。
短期的には、金利上昇局面では金価格への下落圧力は続きやすいです。FRBの利上げ観測が高まれば米ドル高が進みやすく、ドル建てで取引される金の割高感が増します。また国債などの利回りが上昇すると、利息を生まない金から資金は抜けやすくなります。
一方、長期的な視点では金利上昇の背景にある構造的な問題が、金の保有意義を高める要因となっています。日本の長期金利が30年ぶりに3%を突破した裏には、財政規律の緩みへの金融市場の警戒感もあります。「円やドルは刷れるが金は刷れない」という金の本質的な希少性は、財政不安が続く限り金の長期的なサポート要員であり続けます。また各国の財政悪化・インフレの長期化・地政学リスクの継続という3つの構造的な金価格の上昇要因は依然として健在です。
金は短期的な金利動向に左右されやすい資産ですが、長期的な資産保全の手段としての役割もあります。金利上昇という逆風を過度に恐れるのではなく、金が持つ本質的な価値を理解した上で資産全体のバランスを取りながら保有する姿勢が、金利上昇局面での賢い向き合い方と言えるのではないでしょうか。
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金融・投資ライター。大手証券グループ投資会社を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析、為替市場分析を得意としており、IPO関連記事、資産運用記事などを執筆、みんかぶなど複数媒体に寄稿中。また過去多数のIPOやM&Aに関与しブックライティングやインタビューも手掛けている。 ファンダメンタルズ分析に加え、個人投資家としてテクニカル分析も得意としている。 Xアカウント @writerishii

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