最終更新日:2025年11月24日
近年の金市場は大きな変化の中にあります。11月に入り金の上昇は一服しており、その全体像を確認する良い機会となります。金価格上昇の原動力ともなっている、金を取り巻く投資環境の変化について、3つの要因を取り上げて解説します。
金は伝統的な安全資産でありながら、世界経済の変化や投資手段の多様化により、現在は以前とは若干異なる立ち位置にあります。
例えば金は、インフレが進むと上昇しやすいと言われてきましたが、現代はそれだけでは語れません。中央銀行の政策、地政学リスク、個人投資家の参加状況など、様々な要因が、金の値動きに影響を与えています。特に2020年代は、新型コロナウイルスによるパンデミックやエネルギー価格の急騰、米国の利上げなど、金価格に影響を与える多くの出来事が生じました。
金価格の投資環境に変化をもたらした主な要因としては、以下の3点を取り上げることができます。
・世界的なインフレ
・中央銀行の金保有
・少額投資できる環境
それぞれ解説します。
近年の金市場を語る上で外せないのが、世界的なインフレです。新型コロナウイルスのパンデミックによる供給網の混乱、ロシアによるウクライナ軍事侵攻を契機とするエネルギー価格の上昇、各国の大規模な財政政策などが重なり、2021年以降は世界各国で物価が大きく上昇しました。
金はインフレ時に買われる傾向がある資産です。通貨の購買力が低下すると、価値を失いにくい金が注目されるためです。実際、近年のインフレとともに金価格は上昇し、高値圏を維持しています。
しかし同時に、インフレが必ずしも金の急騰につながらない環境変化も生じました。理由は、各国の中央銀行がインフレ抑制のために利上げを進めたためです。金は利息を生まない資産であり、金利上昇局面ではインカムゲインのある金融商品に比べ相対的に不利になるため、価格が抑えられやすくなります。
近年のインフレにより、金価格は“インフレに対する反応”が進む一方、“利上げによる逆風”もあり、二つの間で揺れ動くことになりました。
近年の金市場で最も大きな変化のひとつが、中央銀行による金の積極的な購入です。かつては各国で金の売却の動きが見られましたが、2020年代に入ると多くの国で、金保有量を増やす流れが顕著になりました。
背景には、世界的な地政学リスクの高まりや、基軸通貨である米ドルへの依存を減らしたいとの各国の意図があります。2022年以降、中央銀行の金購入量は過去数十年で最高水準に達し、金相場全体を大きく下支えしました。特に中国、インドなどの国々は金準備を積み増し、国際的にも注目を集めています。
かつて金投資といえば、専門店でインゴットを購入し、自宅や貸金庫で保管するイメージがありました。しかし近年は、個人投資家が少額でも金投資を気軽に始められる時代です。
代表的なのが、純金積立サービスの普及です。貴金属会社、ネット証券などが提供する純金積立は、月1,000円程度から金を積み立てられる仕組みで、価格変動の影響を平均化できるメリットがあります。加えて、金ETF(上場投資信託)や金投資信託など、証券口座で金へ手軽に投資できる金融商品も増えました。現物を保有する必要なく、売買コストも比較的低く、資金に応じて柔軟に購入可能です。
このように、金投資の環境は“少額・簡単”という方向に進化し、個人投資家でも資産形成の一部として金を取り入れやすくなりました。
金の投資環境は、足元の10~20年で大きく変化しました。世界的なインフレ、中央銀行による金保有の増加、そして少額から投資できる仕組みの普及など、以前とは異なる環境のもとで金は投資される時代となりました。
金の投資環境の変化を理解し、金がどのような役割を果たしてきたかを踏まえることで、無理のない投資方針を持てます。今後も経済環境が大きく変わる局面が到来する可能性は否定できません。金がその中でどのような位置付けになるかを見極めながら、冷静な投資スタンスを維持することが重要と言えるでしょう。
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金融・投資ライター。大手証券グループ投資会社を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析、為替市場分析を得意としており、IPO関連記事、資産運用記事などを執筆、みんかぶなど複数媒体に寄稿中。また過去多数のIPOやM&Aに関与しブックライティングやインタビューも手掛けている。 ファンダメンタルズ分析に加え、個人投資家としてテクニカル分析も得意としている。 Xアカウント @writerishii

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